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中国の“雑穀米”は米産“コメ”より手強い!? シャオミ「IH炊飯器」日本投入のインバクト

 

世界のスマートフォン市場4位のシャオミ(小米、Xiaomi)の日本進出が話題になっています。12月9日に東京で開かれた発表会で話題が集中したのはハイスペックのスマートフォン製品でしたが、“本命”はIH炊飯器だったかも知れません。「日米貿易協定」最終合意で米国産コメ(=大米)の上陸を水際で食い止めた日本。しかしながら、“中国産雑穀米”(小米)の逆襲は手強く、それこそ“ひとアワ(粟)吹かされる”ことも覚悟しなければならないかも知れません。

 

炊飯器は日本の“シンボル”!?

 

 

本題の炊飯器について語る前に映画の話題です。BBCが2018年に発表した「史上最高の外国語映画ベスト10」に“華流”映画(香港―フランス合作)がひとつランクインしているのはご存知でしょうか。巨匠ウォン・カーウァイ監督の「花様年華」です。ベスト10には、黒澤明七人の侍」「羅生門」、小津安二郎東京物語」、フェデリコ・フェリーニ甘い生活」「8 1/2」といったように、日本人にもなじみ深い名作が名を連ねていますから、この映画の国際的な評価がいかに高いかが容易に理解できるでしょう。

主演はトニー・レオンマギー・チャン。ストーリーの舞台は1960年代の香港で、英題が「In the Mood for Love」とあるように、ひと言で言えば“ロマンス”漂う大人の恋愛映画といったところです。もっとも、映像描写が独特で、全体像の“解読”に難儀することでは定評があるのがウォン・カーウァイ監督の作品。視聴した人たちは、シーンの随所に散りばめられた仕掛けについて、あーだこーだウンチクを披露したり、「分からないのに分かったふり」をしたりするのが相場となっています。

それはそうといたしまして、この作品をどうして紹介したかというと、じつは、この映画には、登場人物が日本製の炊飯器を囲んで会話を交わすシーンがあり、その描写がとても印象的だったからです。

「ねえ、炊飯器なの?新品?」「夫が日本出張の時に買ってきたの。なかなかいいわよ。みんなで試そうかと思って」……「さあさあ、みんな、炊けたわよ」「陳夫人、ご主人に伝えて私たちにも買ってきてよ」……。食卓で炊飯器のふたを開ける光景まで生き生きと描かれているのです。

 

 

どうやら、日本を発祥の地とする炊飯器は、中国人訪日旅行客の“爆買”が話題となるずっと以前から、“メイド・イン・ジャパン”の代名詞として定着していたといえそうです。

シャオミ日本進出のインパク

 

 

ちなみに、1960年代の香港で“爆買い”アイテムとなったのは「ナショナル」製炊飯器と言われていますが、そもそもお米が日本にとって“聖域”なら、炊飯器は日本人の“神器”ともいえる存在です。ハイテク機器では中華ブランドの攻勢の前に色を失いつつあっても、匠の世界にも通ずる(!?)炊飯器は、依然として日本の“お家芸”による傑作なのです。

ところが、そんな他国ブランドの追随を許さなかった牙城に、シャオミ(小米、Xiaomi)が挑戦状をたたきつけてきました。鳴り物入りで日本市場に投入された「MI IH炊飯器」のインパクトは、“米産”コメの解禁に匹敵するほど大きいといえるのではないでしょうか。

中国のネットでもシャオミの日本進出は大きな話題となっています。同社の創始者にして会長兼CEO、「中国のジョブス」とも称えられている雷軍(レイ・ジュン)氏も、日本でプレスリリースが行われた12月9日、SNSの「微博」で高らかにこう書き込んだそうです。

――「小米把电饭煲卖回日本了!(シャオミが炊飯器を日本に“売り戻し”したぜ)」!

 

「破壊的イノベーター」の面目躍如

 

 

日本で発売が始まった「Mi IH炊飯器」は5.5合炊き。電磁誘導によって内釜全体を発熱させる「IH式」は火力が大きく、熱がムラなく伝わり、ごはんがおいしく炊けるのは定評済みです。かつて三洋電機の炊飯器事業部開発部長の任にあり、「IH炊飯器」を大ヒットさせた実績をもつ内藤毅氏が構造デザインに参加したことも、箔をつけることにつながりました。

「Mi IH炊飯器」の価格は9,999円(税抜)で、中国での販売価格よりもやや高めの設定と報じられていますが、他の日本製品よりも割安です。’シャオミならではの高いコストパフォーマンスを実現しています。

そのほか、世界初となる1億800万画素の高性能イメージセンサーなど5つのレンズを持つ5眼カメラを搭載した「Mi Note 10」(5万2,800円、税別、以下同)と「Mi Note 10 Pro」(6万4,800円)を筆頭に、「Miスマートバンド4日本版」(3,490円)、モバイルバッテリー「パワーバンク3」(1,899円)、スーツケース(7,990円)、キャリーケース(1万7900円)等の価格設定は、どれを見てみても、“破壊的イノベーター”の面目躍如といったところです。

 

 

ちなみに、元々、シャオミがスマートフォンで稼ぐ利益率は5%以下と言われてきました。ハードウェアではなく、広告収入やアプリストアでのゲーム課金、有料動画サービスといった付加価値サービスで稼ぐビジネスモデルを確立してきたのです。メイド・イン・チャイナといえば、かつて舶来ブランドの粗悪な模倣品ビジネスが相場となっていました。そこへ、中国ハイテク業界に新風を吹き込み、独自ブランドを安価で販売することでシェアを伸ばす手法を浸透させたのがシャオミだったのです。その点でも、革命児、あるいは“破壊的イノベーター”としてのシャオミの存在感は揺るぎないものとなっています。

米粉”もいれば“アンチ米粉”も!?

 

 

振り返れば、シャオミが「中国人の、中国人による、中国人のための」製品開発を信条に、Androidスマートフォンの初号機となる「Mi 1」を市場に送り出したのは2011年のことです。

「小米」という名称は、創業メンバーが一緒に食した雑穀米(粟)のおかゆに由来していると言われています。粟といったら、小粒ながらもタンパクやビタミンが豊富な栄養源。「カジュアルなデザイン」で、「圧倒的なコストパフォーマンスの高さ」を実現するというスピリットが、こんなところにも伺えそうです。

常にユーザーに寄り添い、ネットに開設したコミュニティ(「小米」フォーラム)を通して意見を吸い上げ、オフラインでも定期的にユーザーイベントを行うことで、同社は熱心なファン層を獲得してきました。シャオミの製品を支持するユーザーは「米粉=シャオミ・ファン(※ビーフンを意味する“米粉”とファンを意味する“粉絲”をかけ合わせた言葉)」と呼ばれ、カリスマ的経営者である雷軍氏は「米神」として君臨しているのです。

 

 

ただ、シャオミの海外でのプレゼンスは年々高まっているものの、日本については“反米粉(アンチ・シャオミファン”が醸成されてきた側面もありそうです。

きっかけとなったのが、2017年9月に起きた「日本語専攻学生差別事件」です。河南省鄭州市の大学で開催されたシャオミの採用説明会で、同社の採用担当者が日本語専攻の学生たちに語った内容が大きな波紋を呼びました。

当時の報道によれば、担当者はこう言い放ったといいます。「あなたが日本語専攻の学生なら出ていったほうがいいかも。“映画事業”で仕事したほうがいいんじゃないの」――。

“映画事業”とは成人映画を示唆したものであるのは明白で、担当者はその後、この失言についてSNS上で公開謝罪を行うことになりました。そして、その経緯が朝日新聞Yahoo!ニュースで取り上げられたことから、この事件は瞬く間に日本でも知れ渡ることになったのです。

シャオミは永遠にシャオミです!?

 

 

もっとも、風評も評判なりとでもいうべきでしょうか。この事件があったことで、シャオミは当時まだ日本に進出していなかったにも関わらず、認知度を飛躍的に高めた側面さえあります。いまやタブレット「Mi Pad」やノートパソコン「Mi Notebook」等のラインアップを揃え、一方でサブブランドである「Redmi(紅米)」を展開し、さらには出資会社としてゲーミングスマホメーカー「Black Shark」も擁する同社。スマートライトやスマートコンセントなどのIoT機器、スマートバンドやVRゴーグルなどのウェアラブル機器、組立型ロボットといった知育玩具、空気清浄機や炊飯器、さらにはスーツケースやスニーカー、乾電池などの日用品にまで手を広げ、快進撃はとどまるところを知りません。販売手法についても、インドでスマホの自販機を設置するなど、奇抜なアプローチで話題を集めています。

創業当初オンラインでのマーケッティングに特化していたシャオミが、やがてリアル店舗として「小米之家」を全国規模で展開するようになると、同社が目指しているのは「ハイテク界の無印良品」と言われるようになりました。ですが、IoTまで手掛ける巨大な「総合家電メーカー」に変貌した同社がターゲットとしているのは、じつは「21世紀の中華版パナソニック」といったほうが妥当ではないでしょうか。ちょうど「水道哲学」を体現するかのごとく、自動車に例えていうなら「BYDの価格でBMWを手に入れられる」世界を目指しているかのように見えるからです。

 

ただ、グローバル展開とともに「ナショナル」(国)から「パナソニック」(世界)へとブランド名称を切り替えていった松下電器とは違い、「小米」ファミリーのブランド名は、いつまでも「小米」であり、「紅米(Redmi)」であり続けるのではないでしょうか。

かりに時代設定を2020年代にした映画を奇才ワンカーフェイ監督、あるいは彼の息がかかった映画人が撮影するとしたら、どんなものになるのか興味を引かれるところです。もしかしたら、半世紀ぐらい経てば、シャオミ製品が各シーンに散りばめられた名作が登場しているのではないでしょうか。

(文:耕雲)

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