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中国は「民族大移動」の真っ只中 変わりゆく「春運」の風景

 

すっかりおなじみとなった「春運」という言葉。中国で旧正月春節)の15日前から後25日頃までの約40日にかけて起こる、“人類史上”最大の「民族大移動」のことを指します。金持ちの人もそうでない人も故郷で新年を迎えるために必死の帰省大作戦を繰り広げます。そこには笑いもあればペーソスもあります。「春運」を取り巻く風景にフォーカスした話題を取り上げました。

史上最大の「民族大移動」

 

 

「春運」という言葉の歴史を紐解くと、改革開放政策初期にルーツがあるようです。1980年12月に新華社の報道で使われたのが最初で、翌81年からは「人民日報」でも取り上げられるようになったと言われます。多くの庶民が「蛇皮袋」と呼ばれるプラスチック袋に大量の荷物を詰め込み、列車内の荷物棚の陣取り合戦を繰り広げるのが当時の風物詩でした。

 

そんな「春運」を取り巻く殺伐とした光景は、列車のスピード化が徐々に図られていった90年代に改善が見られたかといえばそうでもありません。農村から大都市に供給される労働力が増え続けていった分、その反動で旧正月時の帰省客も莫大な数に上るようになっていったからです。関連記事をチェックすると、“棚代客車”といって、もともとは貨物車として使われた車両が臨時に客車として扱われることも頻繁だったとされています。

 

 

ちなみに、90年代の「春運」で乗客の必須アイテムといったら康師傅のインスタント麺や雑穀粥の缶詰、ひまわりの種ではないでしょうか。当時は何をおいても“兵糧”の確保が最優先だったと言えます。

 

一方、現在は、高速鉄道の列車内で、洗練されたパッケージの車内弁当を楽しめますから、カップ麺を買う人も減りました。その代わり、さまざまなデザインの多機能バックやスマホのアクセサリー、“ダチョウ枕等が、移動時の重要グッズ(※)としての座を射止めたといえそうです。「蛇皮袋」で列車の荷台が覆いつくされていた時代とは隔世の感があります。 

何よりも命綱はスマートフォン。モバイルバッテリーこそ最大の必須アイテムといえるかも。以下は「KauKauモール」で購入できる製品です。↓↓↓)

映画「人在囧途」に見る「春運」

 

 

じつは、現在と全く異なる「春運」の風景を見るには、前世紀にまで遡る必要はありません。時計の針を10年前に戻すだけで十分でしょう。

 

『人在囧途』(Lost on Journey)という2010年6月に上映された映画があります。「春運」をめぐるドタバタ劇が描かれており、帰省途中の主人公の身にありとあらゆるハプニングが降り掛かってきます。コメディー俳優兼監督の徐峥が王宝強とのコンビで熱演しています。

 

ふと時代背景を考えてみると、当時は北京―上海を結ぶ高速鉄道が未開通で、スマホ決済も普及していませんでした。映画で描かれているような奇想天外なハプニングはいまの時代だったら起こることはまずないだろうと思いつつも、「春運」に対する中国人の思いが凝縮された作品に仕上がっています。中国ウォッチャーの方には、一見の価値がある作品でしょう。

 

モーレツからビューティフルへ!?

 

 

テクノロジーの発展で、いまや列車のチケットをダフ屋から高値でふっかけられる心配も少なくなりました。列の割り込みや列車内の荷棚スペースの争奪戦が日常風景になっていた当時と比べると、現在の高速鉄道の列車内は悠々自適とした印象さえ覚えます。昨年の春節時にネットで拡散した高速鉄道版“清明上河図”をご覧いただき、その雰囲気を感じ取っていただければと思います。

 

時代は移り変わり、いまや旧正月を過ごすために、なにがなんでも故郷に帰ろうという人は少なくなってきました。日本に例えてみれば、「モーレツ」の時代から「ビューティフル」の時代の幕が開けたといってよいでしょう。旧正月を海外で過ごす人が増えているのはもとより、「反向春運」(逆流の春運)いう新たな現象が顕著になっているのです。

 

「反向春運」とは、故郷とは別の場所で父母や家族と合流し、一緒に旧正月を過ごす新たなライフスタイルです。「2020年度春運出行予測報告」によると、「反向春運」の人気目的地として上位にランクされているのが重慶、北京、広州、成都、上海で、以下、深セン杭州西安、長沙、鄭州(同順)と続いています。

 

高速鉄道が国境を超える日

 

 

すでに見てきたように、高速鉄道は「春運」を取り巻く風景をガラリと変えてしまいました。中国の高速鉄道の営業距離は3万5000km。すでに日本の10倍の規模に達しており、雲南省昆明とタイのバンコクを結ぶ「中泰高鉄」のように国境を越えたものが次々と敷設されていくことも想定されます。

 

たとえば、タタルスタン(Tatarstan)共和国の首都カザニ(Kazan)とモスクワを結ぶ全長7000キロ以上の高速鉄道の建設について覚書が調印されたと報じられています。将来、中露間を走る高速鉄道が実現するのも夢物語ではないのかも知れません。

 

そういえば『人在囧途』(Lost on Journey)の続編はタイが舞台の『泰囧』(Lost in Thailand)でした。さらに今年の「賀歳片」(正月映画)で話題になっているのが『囧媽』(Lost in Russia)。ロシアでロケが行われたといいますから、これもなにかの因果でしょうか。

 

「春運」が分かるオススメ映画

 

 

徐崢は『我不是药神』(Dying to Survive)のヒットで時の人となったこともあり、「囧シリーズ」の最新作である『囧媽』は公開前から話題が集まっています。封切は旧正月の元旦(初一)が予定されており、良好な興行成績が見込まれています。

 

ネット動画サイトで見られる「春運」にまつわる映画作品として、『人在囧途』以外にもう一作、『イノセントワールド -天下無賊-』をおすすめしておきましょう。

 

監督は馮小剛(フォン・シャオガン)。日本でいえば「寅さんシリーズ」を手掛けた山田洋次監督に相当するかも知れません。お正月映画といえばまずこの人の作品が話題になるのが相場だからです。

 

『イノセントワールド -天下無賊-』は04年に公開され、劉徳華アンディ・ラウ)、王宝強、劉若英(レネ・リウ)という大陸、香港、台湾の3大スターの共演で話題になりました。チベットを出発した列車の車内で繰り広げられる泥棒たちの攻防が描かれています。もっとも、スマホ決済が当たり前のいまでは、いささか時代錯誤の情景描写だと思われる人もいるのかも知れませんね。(耕雲)